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Date:2016年03月11日17時08分
Category:
文学・語学
SubCategory:
四字熟語の処世術
Area:
指定なし
Writer:
遠道重任
一時期、テレビなどでブームとなっていた占い。某女史がマスコミから姿を消したためか、最近はこの手の番組が少なくなった気がするが、「〇〇の母」などと巷で親しまれている占い師の方々がおられるのを思えば、その人気は決して衰えてはいまい。
占いの原点とも言われるのが古代中国で生まれた易だ。亀の甲羅を焼きその割れ目で占うもの(亀卜・きぼく)や蓍(し)という草の茎を使い占うもの(蓍筮・しぜい)などが当時はあったそうだ。こうした神意を聞くための一種神秘的な方法による占筮(せんぜい)の書に、更に儒教の開祖、孔子が哲学的、倫理的な面から解釈を加え完成させたのが易経と言われ、儒家が尊ぶ四書五経の一つとなっている。
孔子は50歳頃から易を学び始め、晩年は易に没頭したとも言われている。論語には「我に数年を加え、五十にして以て易を学べば、大なる過ち無かるべし。」とあり、易が単に神意を聞く占いの書ではなく、人倫道徳を教え導く道標であり、人生を自身の力で切り開くための指標と捉え、多くの時間を費やし学んだことがわかる。
韋編三絶…一冊の書籍を繰り返し繰り返し読むことをいうが、実はこの言葉こそ、孔子が竹簡に書かれた易を繰り返し繰り返し紐解き、竹簡を繋ぐなめし皮の紐が三度も絶ち切れたことを言ったものだ。孔子が易をいかに愛読していたかがわかる。『史記孔子世家』
孔子が易を学んで後、弟子たちにもわかりやすく易の本質を伝えるために、解説書を著された。これが「十翼」とよばれるもので、後に儒教の経典としての地位を得、易経として弟子たちに伝わったとされる。
韋編三絶…私もこれまでに一冊だけ、文字通り韋編三絶して読みふけった本がある。「理数合解」という本だ。漢書を我が師が日文に訳し、さらに解説を付された本なのだが、実に難解で何度も何度も繰り返し読むうちに、背の糊がはがれてしまい、今では本全体をゴムバンドで留め、今も時折読んでいる。
話を戻すが、易にこんな言葉がある。「初筮(しょぜい)には告ぐ。再三すれば涜(けが)る」と。つまり、易は安易に自分の将来を神に問うものではない。自身の思考が先で、考え抜いた末に神意を聞くものなのだ。考え抜くことで心は誠に近づいていく。そして、考え苦しんだ末に、すべてを天に委ねる心が生まれるのだ。したがって易が出した結果には素直に従うだけである。いやしくも出た結果が不服だからと、二度三度と繰り返し易を立てるなどということは不遜以外のなにものでもない。
易に向かうにはまず人事を尽くすことが先決である。尽くしきった時、初めて人の心は誠になる。自分の心に誠がなければ、到底、神意を聞くことなどできないのだ。そう考えたとき、果たして、巷で易を立てる者、その言葉を聞く者に、易は真実を告げているのだろうかと、疑問がわいてしまう。