【四字熟語の処世術】「意気衝天」(いきしょうてん)

 Date:2016年09月20日11時58分 
 Category:文学・語学 
 SubCategory:四字熟語の処世術 
 Area:指定なし 
 Writer:遠道重任


 とある駅の掲示板。近所の中学校が作る新聞が貼られている。そこに書かれていたのは白組、紅組に分かれて競った体育祭の様子。大書された「猪突猛進」、「意気衝天」の文字が踊っている。前者は紅組、後者は白組のスローガン。脇目も振らず、ただ優勝の二文字を勝ち取るために一丸となった紅組。元気いっぱい、大いに意気を挙げ、皆の心を一つとして勝ちに行った白組。二つの四字熟語は当日の学生たちの気持ちをよく表している。

 意気衝天…辞書には意気込みや気力がこの上なく盛んなこと。 「衝天」は、天を突き上げるほどに勢いの盛んなこと、とある。

 この夏、リオのオリンピックでは、かつて無いほどのメダルラッシュに日本中が歓喜の声を上げた。金12,銀8,銅21、合計41個の獲得メダル数は過去最多を記録した。選手一人ひとりの意気天を衝く情熱が成し得た結果であろうが、選手を取り巻く支援者や日本中の人々の意気が揚がって天を衝き、その気が声援となって選手の背中を強く押したこともまた事実だろう。9月8日にはパラリンピックが開幕する。ここでも選手たちが意気衝天の勢いでメダルを目指して突き進んでくれるだろう。

 意気天を衝くほどの情熱は若者が持ち得る特権である。肉体、気力ともに盛んな時であってこそと言える。しかし、中高年、あるいは年老いても情熱を失わない人は多いはずだ。仕事であっても、趣味であっても、一途に何事かに打ち込む人の気力は衰えることを知らない。気は練れば練るほどに密度を濃くし、力を蓄え、天をも衝くほどの力となる。残念ながら若き肉体を取り戻すことは難しいが、気力なら若者と肩を並べて競うこともできるはずだ。

 気とは不思議である。時に肉体を支配し、時に心までも支配する。気に陰陽あることはご存じだろう。人を評して陰気な人、陽気な人などと言うことからも分かる。ただ気は常に変化する。だから、ずっと陰陽のどちらかに偏ることは無い。日頃はプラス思考の人も時にマナス思考に陥ることもある。日頃はポジティブな人がネガティブな行動を取ることだってある。

 自分の内にあるこうした気を自由にコントロールできれば、何事にも情熱を失わず意気盛んに対応できそうだ。意気衝天ほどのパワーは有しなくても、肉体の衰えが心まで弱気にさせることはないような気がする。