【四字熟語の処世術】致知格物(ちちかくぶつ)

 Date:2017年01月24日12時54分 
 Category:文学・語学 
 SubCategory:四字熟語の処世術 
 Area:指定なし 
 Writer:遠道重任


 致知格物…聞き慣れない言葉だろうが、「致知」という雑誌の名前は聞いた事があるかもしれない。出典は儒学の聖典「大学」である。孔子が治世の要を論理的に説明した際に使用した言葉だ。辞書には事物の道理を極め、学問、知識を広めることとある。雑誌の「致知」創刊の理念も「人間学を学ぶ」ことにあり、「仕事に人生に真剣に取り組んでいる人たちの心の糧になる雑誌」を目指しているという。

 人は幸せになるために生まれ、その命を運び、その道を切り拓き、一歩一歩と地道に歩み続ける。政治を志す者はそのための土台を整備し、人の幸せを守り、安全安心を与えることに一身を投じる。天下太平になるを望み、その道標を人々に示し、安心な道へと導く。政治家の基本姿勢は極めて単純であり、明確だ。すでに2500年もの昔、中国の思想家、孔子は今も変わらない普遍の教えを遺した。

 孔子は言う。人が天下太平を望むならば、まずその天下を形作る国々が治まっていなければならない。その国が治まるためには国のもとである家々が斉わなければならない。家を斉えるためにはそこに住む各人が身を修めなければならない。各人がその身を修めるには、まずはその心を正さなければならない。その心を正すには心の基である意を誠にしなければならない。意を誠にするには事物の道理を極め、自身の物欲を格除しなければならない。そしてそれは知に至る事に他ならないのであると。

 つまり、孔子は世界平和という人類にとっての大きな大きな夢の実現も、詰まるところ自分自身の足下にあることを教えた。日々の生活の中で自分自身の心をどうやってコントロールするか…。そのために必要なこと、それを致知と教えているのだ。致知の知は単なる知識ではない。人が本来備えている知恵である。この知恵に自身を従わせ生きるということだ。

 自身に内在する知恵を掘り当てれば物事の道理を知ることができ、自身をコントロールすることで修身は成り、斉家も成り、治国も成り、天下も泰平になるとのロジックである。一人の凡夫にして然り。ましてや一国を預かる政治家ともなれば世界にも影響を与えるのは必至である。舞台は例え世界であっても動かすのは一人の人間であり、その心である。

 1月20日、世界中が注目するアメリカ大統領の就任式が首都ワシントンで開催された。アメリカという超大国を導く指導者はそれにふさわしい人格者であってほしいと誰もが望んでいる。これまでの言動はともかく、就任後は心を静かにして内なる知恵の声に耳を傾け、周りを慮る政に徹し、自国の安定のみならず、世界中の国々に平和をもたらす政策を練ってほしいものだ。

 アメリカファーストはいいが、結果、周りの国々が病んでしまってはいずれアメリカも同じ病に侵されることは自明である。真の知恵者は自国の利のみならず他国の利をも慮ることができる者である。知恵は己の欲を格除したところにある。

 トランプ大統領が真の知恵者であることを切に望むものである。