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【四字熟語の処世術】一刻千金(いっこくせんきん)
Date:2017年04月17日10時01分
Category:
文学・語学
SubCategory:
四字熟語の処世術
Area:
指定なし
Writer:
遠道重任
良き時はあっという間に過ぎ去ってしまう。先日、孫娘が遊ぶ公園の桜が風に吹かれて花びらを散らしていた。ようやく満開になったと思っていたのに、もう花びらが宙を舞っている。ついこの前まで伝え歩きしか出来なかった子が、その花びらを追いかけ小走りする姿に驚かされた。一方で時の流れの速さに自身の年齢を重ね、言いようのない淋しさを感じる一時でもあった。
中国は北宋の詩人蘇軾は「春宵一刻直千金 花に清香有り 月に陰有り」と詠んだ。春の夜の趣は千金に値するほど素晴らしい。花は清らかな香りを放ち、月はおぼろに霞んでいると…。
春は陽気が漸次盛んとなり、人の心を解放してくれる反面、時の移ろい易きを覚える時でもある。潔く散る桜にはその華やかさの裏に悲しき性を感じる。その性を知る故に桜を愛でる気持ちは一段と強くなる。
半年ほど前になるが、とある駅に貼られた学校新聞のことを書いた。近くの中学生が季節毎に作っているもので、そこに大書された「意気衝天」「猪突猛進」の四字熟語を紹介した。最近見かけた同新聞には「一刻千金」の四文字が書かれていた。余程に四字熟語が好きな生徒たちなのか、それとも担任の先生の影響なのかは分からないが、卒業生が在校生へ贈った言葉として紹介されていた。
一刻千金(いっこくせんきん)…先に紹介した蘇軾の漢詩が出典である。辞書には「わずかな時間も大切であることのたとえ。貴重な時間や楽しい時間は過ぎ去りやすいことを惜しむ言葉」とある。
時間の早さは年代によってその感じ方が違う。年を重ねるほど流れを速く感じる。別に科学的な根拠があるわけではないのだろうが、実際に多くの人が経験している。時間の大切さを教える言葉がたくさん遺されているのは、年をとって始めて見えるこの景色に、未だ知らず、気づかずに過ごす若い世代に、一刻の尊さを教えたいと思う親心からだったのだろう。
朱熹の詩『偶成』に「少年老い易く学成り難し、一寸の光陰軽んべからず、未だ覚めず池塘春草の夢、階前の梧葉すでに秋声」とある。「光陰矢のごとし」「歳月人を待たず」「盛年重ねて来たらず」など、これらは一刻千金同様、月日の流れはあっという間、故に無為に送るべきではないと戒めた言葉達である。
年をとった今だから私にも言えるが、若き日の一日一日はまさに千金にも勝る価値がある。人それぞれに目標は違うだろうが、そこに向かって一所懸命に努力すること、無為に過ごさないこと。結果よりもその努力にこそ価値があると思う。
とはいえ、そういう自分も人生の先輩諸氏から見ればまだまだ若輩。自分なりの目標に向かって努力を惜しまず、無為に日々を送ることだけはないように自分自身を戒めて行きたいと思っている。