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Date:2019年03月13日08時01分
Category:
エッセイ
SubCategory:
街景寸考
Area:
指定なし
Writer:
大昭寺いさじ
♪あかりをつけましょ ぼんぼりに
おはなをあげましょ もものはな
ごにんばやしの ふえたいこ
きょうはたのしい ひなまつり
ご存じ、童謡「うれしいひなまつり」の歌詞の一部である。小学校低学年の頃、学級担任の弾くオルガンに合わせて大声で歌っていた。級友たちも他に負けじと大口を開けて歌い、教室の中は割れんばかりの歌声が響いていた。
ひな祭りの歌を歌うのは楽しかったが、行事としてのひな祭りを楽しいと思ったことはなかった。自宅にひな壇が飾られていたわけではなく、何か普段とは違う美味しい食べ物を食べさせてもらえるというわけでもなかったからだ。その頃のわたしは、ひな祭りが女児のための行事であることを知らなかった。
いかにも男児のための祭日のような印象をもつ5月5日の「こどもの日」も、同じように楽しいと思ったことはなかった。世間並に鯉のぼりや兜、武者人形を飾ってもらえなかったからということではない。ちまき餅を食べさせてもらえなかったからであり、小遣いも普段と同じ10円だったからだ。嬉しかったという記憶を強いて言えば、隣のおやじさん(山本さん)が新聞紙でこしらえた兜をわざわざ持ってきてくれたことくらいだ。
小学校低学年の頃まで「ひな祭り」も「こどもの日」も、男児も女児も対象にしている行事だと思っていた。ところが、「ひな祭り」は女児だけであり、「こどもの日」は祝日法では男児も女児も対象にはしているが、その行事の有様はどう見ても男児のためのものである。子どもたちにこうした分かりにくい思いをさせないためにも、これらの歌を歌わせる前に学級担任がきちんと説明をしてやるべきだ。
ところで、「ひな祭り」と「こどもの日」が年中行事として定められている国を、日本をおいて他にわたしは知らない。男女同権を掲げる国として当然ではあるが、いずれも日本古来の伝統行事として続けられてきたというところが誇らしい。ただ、「こどもの日」は祝祭日にしているのに、「ひな祭り」はそうではないということには疑義がある。
わたくしごとで恐縮だが、つい先日10人目の孫ができた。孫としては初めての男児である。孫娘ばかりでも嬉しくはあったが、初めての孫息子ともなれば少し違った感慨がある。3月3日に生まれたというのも、神様の粋なジョークだと受け止めている。この際、政府はひな祭りの日も祝祭日にしたらどうか。
20年後の3月3日、わたしは孫息子とキャッチボールをした後、甘酒ではなく濁り酒で乾杯をしているであろう。わたしが生きていたらの話である。