【街景寸考】夢のことで思うこと

 Date:2019年09月18日08時01分 
 Category:エッセイ 
 SubCategory:街景寸考 
 Area:指定なし 
 Writer:大昭寺いさじ
 これまで予知能力を思わせるような夢を、何度か見てきた。それらがどんな夢だったのか今ではほとんど憶えていないが、どれも「この目の前の現実の光景と同じ光景を、以前夢で見た」というものだった。幸い、今でもはっきりと記憶している正夢が二つある。

 一つは、照明に照らし出された夜の中古車センターにいるわたしが、星空を見上げて佇んでいる夢である。20代の頃に見た夢だ。目が覚めた後も、その部分の光景だけが記憶に残り、自分がなぜそんな所にいたのか夢の経緯を辿ろうとしたが、できなかった。

 わたしはその夢を見るまでは、中古車センターに行ったことはなく、ロードサイドに展示されている中古車群を車中から横目で見るくらいのものだった。ましてや、展示されている中古車を物色するようなことは、ただの一度もしたことはなかった。

 ところがその夢を見てから1年ほど経った頃、わたしは友人の紹介で相模原市の中古車センターでたまたまアルバイトをすることになったのである。仕事は主に展示している中古車を洗ったり拭いたりすることだった。関東の日暮れは九州よりも一時間ほど早く、晩秋の午後6時頃にもなると辺りは暗くなる。

 わたしが洗車をしていたある日のこと、展示場の照明が点けられて周囲がパッと明るくなったとき、「この光景は以前見たことのある光景だ」と瞬時に思ったのである。そして、それが以前夢の中で見た光景とよく似ていることを思い出し、何とも茫漠とした気分に包まれ、目の前の光景と夢の中で見た光景をしばらく思い比べていた。

 二つ目は、茶畑で茶摘みをしている夢だった。それまでわたしは、茶畑や茶摘みにまったく縁がなく、どういうふうに茶摘みをするのかさえも知らなかったのである。更に茶摘みをしているわたしに向かって、高台から声をかけながら手を振っている老人の姿も夢に出ていた。わたしもそれに応えて愛想よく手を振り返したのである。夢の中で。

 この夢から覚めたとき、そこがどこの茶畑だったのか、その老人が誰だったのか、なぜわたしが茶摘みをしていたのかを手繰ってみたが、手がかりらしいものはなかった。ところがその半年後、現実にその夢の中で見た光景に出くわすことになったのである。

 そこは友人の実家の茶畑であり、夢に出てきた老人は友人の父親だった。たまたま友人の実家へ遊びに行った際、茶摘みを面白半分に手伝っただけだったが、そのときの光景が夢の中と同じだったのだ。その夢のことを思い出し、不思議な気分に囚われていた。