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Category:
エッセイ
SubCategory:
街景寸考
Area:
指定なし
Writer:
大昭寺いさじ
先頃、米外交誌が日本の新型コロナ感染対策のことで、面白い論評をしていた。「(日本の対策は)ことごとく見当違いに見えるが、結果的には最も死亡率を低く抑えている国の一つであり、奇妙にも上手くいっているようだ」と表現していた。
日本人であるわたしから見ても、これまでの日本政府の感染対策を評価するに、迅速かつ的確だったとは思っていない。病原体の発祥地である中国からの入国制限をしたのは4月に入ってからであり、あまりにも遅きに失した。個人や事業者への給付金や助成金等の支援策もスピード感がなく、国民の多くが地団駄を踏んでいる。
感染状況の把握をするためのPCR検査にも不信感を持ち続けてきた。国際社会と比べて日本の検査数は極端に少なく、遅々として進まない状況に首を傾げるだけの政府関係者や専門家たちをTVで見るたびに失望していた。現在においても東京都の1日平均検査数を1とするならニューヨーク市は100の検査数があり、話にならない。
ところが、こういう「見当違いに見える」対策でも、主要先進国との比較では人口当たりの感染死者数は日本が極端に少ない。アメリカが約10万人、イギリスが約3万7千人、イタリアが約3万3千人、スペイン・フランスが約2万8千人。対して日本は約9百人に留まっている(6月1日現在)。
最近になって日本のメディアも同誌のこの面白い論評に注目し始め、感染死者数の少ない自国に関心を示すようになってきた。そして、考えられる要因を列挙するようになった。
まず、日本人は清潔好きであり、手を洗ったりマスクをつけたり、うがいをしたりする習慣を身につけてきた国民であるということ。毎日のように風呂に入り、靴を脱いで家に入る習慣もある。欧米人のようにハグや握手、接吻をする習慣もない。
更には、乳幼児期に結核予防のBCGワクチンを接種する国柄であることも挙げていた。また、過去において日本人の多くが新型コロナに類似するウィルスに感染し、その免疫を持っているからではないかという仮説を立てていた専門家もいた。
確かに日本は欧米諸国に比べれば感染を最小限に喰止めてきた国ではあるが、同じアジア諸国との比較ではその評価を変えざるを得ない。日本よりずっと死者数が少なく、致死率も低いからだ。特に感染対策が高く評価されているベトナムは、すでに2月1日に非常事態宣言を発し、感染者の隔離とロックダウンを実施している。まだ6人の感染者しかいなかったときだ。そして現在、感染者数は約328人、死者数はゼロだというから驚く。
同誌が指摘していた日本の「見当違い」な感染対策は、いずれそのツケが回ってきそうでならない。そして「奇妙に上手くいっている」という指摘も、先でその真実が暴かれることになるであろう。
先日、安倍首相が非常事態宣言の解除を表明するとき、「日本モデルの力」という言葉を誇らしげに使っていたが、これまでの対策の失態を隠すための詭弁としか聞こえなかった。これまでの日本を評価するとすれば、その主要因は国民の「自粛努力」にあると言っていい。