【街景寸考】「GO TO キャンペーン」のこと

 Date:2020年06月10日08時01分 
 Category:エッセイ 
 SubCategory:街景寸考 
 Area:指定なし 
 Writer:大昭寺いさじ
 新型コロナをネタにして小欄で4回ほど続けて書いてきた。今回は他のネタにしようと思っていた矢先に、かのアベノマスクが我が家に届いた。その布マスクを目の前にしたら急に腹が立ってきて、また書かなければ気が済まなくなってきた。

 このマスクを前にしてそこまで感情的になるのは、「アベノマスク」という造語のせいだと思う。「アベ」と「安倍」が重なるので、政治不信の中心にいる安倍総理から直接マスクが送られてきたような気分になったからかもしれない。

 アベノマスクに不快感を持つのは感情のせいだけではない。医療体制の問題や生活苦、経営難など新型コロナ禍にあって、446億円もの予算をマスクに投入することよりも他に急を要する対策はもっとあるはずだという思いがあった。明らかに優先順位が違うのではないかという思いがあった。多くの国民から怒りや嘲笑を買ったに違いない。

 不快感はまだある。妊婦あてに先行配布したマスクに変色や髪の毛、異物の混入があったことや、小中学校や特別支援学校に配布したマスクに虫が混入していたこと、全戸配布用の中にもカビが生えたマスクがあったということなどが相次いだからである。

 結果的にアベノマスクの配布は、丸2カ月を過ぎても未だ半数近くも届いていないということだ。こうした状況に、国民の多くがホトホトうんざりしたに違いない。市販のマスクが徐々に市場に出回るようになってから届いたアベノマスクを前にしたとき、今さらの感で憎しみさえ覚えた。

 新型コロナ関連のネタを書かずにはおれなかった理由が、もう一つある。それはコロナ対策で予算化された第1次補正の中に、約1.7兆円規模の「GО TО キャンペーン」のことだ。この施策は新型コロナの流行収束後に、観光、運輸、飲食、イベントなど自粛の影響を受けている業種を対象に、宿泊料金の割引や現地クーポン券を付与するなどにより需要喚起を図ろうとするものだが、無知ゆえに納得できないでいる。

 今は何よりも感染拡大を抑え、医療崩壊を抑え、コロナ病床の確保や外来患者の減少などで経営悪化する病院を守るための予算措置を優先すべきときではないのか。収束後の心配は収束後でよいのではないか。ところが野党までもがこの施策に関して、「事務委託費が高い」という批判をしているだけだったので、実に情けなくなった。

 感染が収束すればこうした補助がなくても客足は徐々にではあるが、回復してくるものだ。このキャンペーンは7月中にも実施される予定のようだが、百歩譲ってこの施策を由としても感染が収束するかどうかは誰にも分からないはずだ。延期をするにしても、理屈は同じである。このキャンペーン、本当に大丈夫なのか。

 もっと心配に思うのは、このキャンペーンが実施されたとして、それはそれで人の流れが全国規模で加速することが予測され、第2波、第3波の感染を大きく拡げてしまう導火線になるのではないかということだ。そういう事態にならないよう、祈るしかない。

 政治不信が募る今、大阪府知事のような優れた指導者の登場が待たれている。