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【街景寸考】初めての避難所体験
Date:2020年09月09日08時01分
Category:
エッセイ
SubCategory:
街景寸考
Area:
指定なし
Writer:
大昭寺いさじ
今回の台風10号のことをメディアは、スーパー台風と呼んでいた。3、4日前に通過したばかりの台風9号のときは強い風に揺れる雨戸の音がうるさかったので、これに懲りて今度は自治体指定の避難所に行ってみようかと考えた。避難所に行くかどうかを真剣に考えたのは今回が初めてだった。
避難所に行こうと決意したのは、TVで災害の専門家が「今回の台風は米国のハリケーンで言えばステージ4に相当するものであり、このような場合、州政府は進路に該当する地域から離れて遠くまで非難するよう指示している」と言っているのを耳にしたからだった。
昼過ぎ、カミさんと連れ立って避難所に行くと、すでに1階の各部屋は満杯になっていた。2階の小ホールに案内されると、すぐさま役場のスタッフからプライベートブースを作るために必要な段ボール数枚とガムテープを提供してもらった。4枚を下敷きにし、間仕切り用に6枚を張り合わせ、ものの5分で自分たちのブースを作り上げた。粗末ながらもなぜかホッとすることができた。居心地は悪くなかった。
台風10号が北部九州に最接近するのは、未明から夜明けになるということだった。逆算すると未明までは13時間もあった。まずカミさんが用意してきた弁当を食べ、その後は時間潰しに隣のブースにいる近所のオヤジと雑談をし、それに飽きると1階ロビーに設置されているTVを観に行ったりした。この間、ずっと退屈な気分で居続けた。
午後10時になると室内の明かりが一斉に消えた。消灯の時間だった。暗くなったが眠れそうになかったので、再度ロビーへ行き持参した文庫本を読み、目が疲れると台風情報を続けているTVを見るともなく見ていた。同じ映像や情報が流れているだけに見えた。
ブースに戻ったときは午前0時を過ぎていた。すでにカミさんは寝入っていた。周辺からいびき声が聞こえていた。暗かったので正確な距離感は掴めなかったが、耳を澄ますと3方向から聞こえていた。「三重奏」ならぬ「三重騒」だった。しばらくすると、まるでこの「三重騒」に呼応するかのように歯ぎしりの音が加わり「四重騒」になった。
「ギリュリュ、ギリュリュ・・」。奇怪な音だった。強いて言うならトノサマガエルの鳴き声に近かった。他人の歯ぎしりを何度か聞いたことがあったが、いずれも短時間のものだった。このときの歯ぎしりは、朝方まで続いていた。
わたしの睡眠を特に妨げたのは「三重騒」でも外の暴風音でもなく、この歯ぎしりだった。眠たくても眠ることができなかったわたしは、この歯ぎしり野郎を探し当てて首を絞めてやりたくなっていた。
今回、避難所に来た第一の動機は、雨戸のうるさい音から逃れてくることだった。それが、まさか歯ぎしり野郎と遭遇することになろうとは考えてもみなかった。今後は避難所には行かず、雨戸のガタつきを無くすことを事前対策にしたいと強く思った。
帰宅後、直ぐに自宅の無事を確かめた。午前10時を過ぎていた。ときどき吹き返しの強い風が吹いていた。