【街景寸考】新政権に期待すること

 Date:2020年09月23日08時01分 
 Category:エッセイ 
 SubCategory:街景寸考 
 Area:指定なし 
 Writer:大昭寺いさじ
 安倍長期政権には辟易していた。

 特に不信感を抱くようになったのは森友学園問題からだ。国有地を約8億円も値引きをして森友学園に払い下げたのは、安倍総理夫人の関与があったからではないかという事案である。財務省はこの関与を隠蔽するために文書の削除・改ざんを行い、この指示を受けた近畿財務局の職員が苦悩したあげくに無念の自殺を図った。

 続いて持ち上がったのが加計学園問題だ。獣医学部を新設する「国家戦略特区」の事業者に加計学園が選定されたのは、加計学園の理事長が安倍総理の親友であるということで、特別に便宜が図られたのではないかという疑惑である。この問題に関しても、国民が納得できる説明は未だになされていない。

 このモリ・カケ問題の最中に「桜を見る会」の問題が重なった。総理主催のこの会に安倍事務所が地元山口県の支援者から参加を募って招待をしたのは「税金の私物化」「公私混同」だとして、野党から追求されている事案だ。この前日に安倍事務所が企画した夕食会も、参加者の会費制を巡って政治資金規正法違反の疑いがあるとして野党から追求されている。

 新型コロナへの感染対策も頼りなかった。PCR検査はなぜか進まず、446億円もかけた「アベノマスク」も大半の国民から不評を買った。また当初は、発生源である中国からの入国制限に弱腰だったことも苛立たせた。国民の命より国賓来日を控えていた習近平氏への忖度や、東京五輪開催への影響の方を配慮しているように思えていた。

 安倍政権に対する不信はまだある。閣僚の不祥事や失言等による更迭や辞任が相次いだからだ。辞任した閣僚だけで9人もいる。最近では河井元法務大臣夫妻が大型買収事件で罪に問われ、更には衆議院議員の秋元司氏がIR汚職に絡んで再逮捕されている。

 「外交の安倍」という評価も鵜呑みにできなかった。拉致問題に進展はなく、北方領土問題も逆に後退して2島返還までもが望み薄になっている感がある。韓国とは関係悪化の状態が続いている。トランプ大統領と親密な関係を築いてきたと評されているが、戦闘機などの高額な武器を無理に爆買いさせられてきただけという印象の方が強い。

 自画自賛のアベノミクスはどうか。確かに株価を安定的に引き上げ、400万人超の雇用創出をしてきたようだ。しかし雇用は主に非正規社員を増やしただけで経済格差は一層深まり、つまるところ低所得者層の裾野が広がっただけではなかったか。

 安倍総理の辞任会見で記者たちが質問をする際、労いの言葉をかけなかったとして非難をする声があったが、その気持ちも分からないではなかった。安倍政権が7年8カ月もの長い間続いたのは安倍一強体制によるものだが、恥も外聞もなく政権にしがみつくという無神経さもあった。しかし、最大の要因は何といっても多弱野党のせいである。

 先日、菅新政権が誕生した。就任会見で菅総理は、「安倍政権を継承するのがわたしの使命」と語っていた。この言葉に不快感を覚えたが、未知の政権ゆえに期待がないわけではない。期待に応えてもらうためにも、せめて「納得と共感」ができる政治を目指してほしい。