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【街景寸考】恥ずかしながら
Date:2021年12月15日10時21分
Category:
エッセイ
SubCategory:
街景寸考
Area:
指定なし
Writer:
大昭寺いさじ
恥ずかしながら4回前の小欄で、古希を過ぎてもすこぶる元気であるという文章を自慢げに書いたが、それから数日後に病院へ行く羽目になった。
筋か神経だか知らないが、右の肩甲骨の辺りから右腕にかけて激しく痛むようになったのである。更に、薬指と小指も痛みはないが痺れるようになった。就寝後も痛みで何度も目が覚め、そのたびに身体の向きを変えて痛みの和らぐ姿勢を探すが埒が明かなかった。
病院に行く気になったのは、この状態が1週間も続いたからだった。わたしは病院の玄関を転がり込むような勢いで自動ドアを通った。外来は既に混んでいるだろうと想像していたが、意外にもひっそりとした空気感が広がっていた。
受付の職員はわたしの症状を簡単に聞き出すと、「神経外科でいいですね」と手早く判断して整形外科の診察室の前で待つよう促した。診察室の前は3密を避けるように椅子が間隔をおいて並べられていた。間もなく看護師が事前に記入する問診票を持ってきた。
問診票には入院歴や手術歴の有無、飲酒の量や喫煙していた頃の量や期間など、既に忘れてしまっているような項目も結構あり、記入するのに相当難儀しなければならなかった。記入しているうちに記憶力の試験させられているように思え、不愉快になってきた。
記入後、わたしは持参した文庫本をポケットから取り出した。「天人五衰」という三島由紀夫が最後に書いた作品である。その時分には看護師や患者が外来をせわしなく行き来する時間帯になっていたが、思いのほか集中して読むことができた。
暫くして看護師から呼ばれ、診察室の引き戸を開けると、医師の横顔が目に入ってきた。8年前、首を寝違えて診てもらったときの医師だった。50歳を過ぎたその医師は、わたしが診察用の丸椅子に座ると同時に「どうしましたか」と事務的な声で訊いてきた。
わたしは右の肩甲骨や右腕が1週間前から痛むようになったことや、夜も痛みで何度も目が覚めることなどの経緯をなるべく正確に伝えた。その間、医師は横を向いたままパソコンのキーボードを打っていた。痛みの特に強かった前腕部分を左手で支えながら窮状を訴えていたときも、医師はわたしを少しも見ようとはしなかった。
そのうち医師はやおら立ち上がり、わたしの首や手を軽く両手で回したり、打診器で肘や膝を叩いたりした。その後は何の所見を言うわけでもなく、首のレントゲンを撮ってくるように促した。わたしは担当医のことを頼りなく思いながら放射線室に向かっていた。
それでも放射線室で感心したことがあった。わたしを撮影したレントゲン技師が「確か8年前にも撮りましたよね」と言って声を掛けてくれたのである。
レントゲン撮影をすませて再び診察室に入ると、医師から「頸椎が狭まっていますね。後日、МRI検査をして詳しく調べてみましょう」と言われ、この日は単に痛みを抑える薬と
湿布薬の処方箋を出してもらっただけだった。
病院の玄関を出ると、外は胸のすくような青空が広がっていた。爽快感を満喫したかったが、「МRIの結果が出るまでとっておこう」と、もう一人の自分が囁いた。