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Date:2022年03月10日13時32分
Category:
エッセイ
SubCategory:
街景寸考
Area:
指定なし
Writer:
大昭寺いさじ
「与ひょう、あたしの大事な与ひょう、あんたはどうしたの?あんたは段々に変わっていく。何だか分からないけれど、あたしとは別の世界の人になってしまう。あなたが純粋にあたしの命を助けてくれたから、嫁にきたのよ」
「あんたはほかの人と違う人。わたしの世界の人。だからそっと二人きりで、畑を耕したり、子どもたちと遊んだりしながら静かに暮らして生きていくつもりだったのに。だのに何だか、あんたはわたしから離れて行く。どうしたらいいの?」
ご存じ、民話「鶴の恩返し」を劇作家・木下順二氏が戯曲化した「夕鶴」の、大詰めの場面である。「夕鶴」のあらすじは、こうだ。正直者の与ひょうに救われた鶴が、女性おつうに化身して与ひょうの嫁になり、夫婦になって暮らし始める。おつうは与ひょうに喜んでもらおうと、自分の羽を抜きながら千羽織という布を織るようになる。
与ひょうはその布が高値で売れることを知人からそそのかされ、次第に金に目がくらむようになる。与ひょうは金持ちになっても、もっとたくさん布を織るようおつうに頼み、ついには強要するようにまでなる。
そんな与ひょうの変わりように、おつうが驚愕し狼狽して泣き叫ぶ場面が、冒頭の部分だ。あげくに与ひょうは、布を織っているときは決して機屋を覗いてはいけないという、おつうとの約束まで破ってしまう。機屋で与ひょうが見たものは、やつれはてた鶴の姿だった。鶴は与ひょうの元を去り、空に帰って行く。「人間の欲」を題材にした戯曲だ。
「夕鶴」は、わたしが中学生の頃の国語の教科書に載っていた。当時、わたしが最も心を打たれたのは、「あたしとは別の世界の人になってしまう」というおつうの悲痛な言葉だった。欲深い人間に変わった与ひょうの言葉(心)を、純真なおつうが理解できなくなるということが現実の世界でもあり得ると思えたからだ。
常日頃から心のきれいなわたしにも、おつうと似たような経験がなくもない。例えば、株をやっている知人から、儲かったときの話を自慢げに聞かされたときなんかである。聞こえてくる声は日本語なのに、鼓膜が拒否反応を起こしているのか声が遠くから聞こえてくるような感覚になるのである。
株投資で使われる言葉を知らないということもあるが、それ以上にわたしが金儲けに興味がないという思いの違いが厚い壁になっているような感じになる。
言葉が分からなくなるという例で言えば、飲み会で和気あいあいと楽しく飲んでいるところに、誰かがゴルフの話題を出したときになる。辺りにいる仲間たちの心が一斉にそちらへ吸い寄せられるので、ゴルフ用語もルールも知らないわたしだけが突然蚊帳の外の人になるのである。このときの孤立感たるや、まさに驚愕と狼狽と極みである。
このことをカミさんに愚痴りたいこともあるが、「あんたの方こそ野球のことしか知らないんだから、仕方がないんじゃない」と言い返されそうなので、胸に納めている。