【街景寸考】夢のような席替え

 Date:2013年03月06日09時52分 
 Category:エッセイ 
 SubCategory:街景寸考  
 Area:指定なし 
 Writer:大昭寺いさじ
 小中学校のとき、新学期を迎えると直ぐに席替えがあった。高校時代の席替えはあまり記憶にない。席替えのときは、いつも胸が高鳴った。マドンナの横の席に座ることができるよう強く念じていたからである。この場合のマドンナとは、美人で成績の良い女子のことだ。

 マドンナ級はクラスに2人くらいはいた。そのどちらかが隣の席になればバンバンザイである。嫌いな学校が好きになれるのだから、こんな幸せなことはない。給食と体育だけでは、そこまでの気持ちにはなれなかった。しかし、この密かな期待は、「一度の例外」を除けば、ことごとく打ち砕かれてきた。

 期待に反する結果がこうも続いたのは、席替え構想に際して、そのときどきの担任たちが問題児の私を大きな軸にして配置をしたからだ。つまり、野獣のそばにマドンナは近づけられないと考え、同類の友を横に置いたら周りに迷惑が及ぶと考えたのだ。

 ところが中3の2学期の席替えはこれまでとは違った。「一度の例外」というのはこのときのことだ。そのときの担任は、中央の2列から縦列に右左と成績順に座らせ、成績の悪い生徒は段々中央から離れるという配置だった。受験競争に刺激を与えるという策だったのだろう。

 このお陰で、直近の模擬試験の成績がたまたま良かった私の席は、何と2人のマドンナから真横と真後ろに囲まれるという席の配置になった。期待以上の席替えになったのだ。私は夢心地というのを初めて味わったような気分だった。その一方で、こんなに旨い話が本当に長く続いてくれるのだろうかと、訝ってもいた。

 そして案の定、その心配は間もなく現実のものとなった。成績順が誰の目にもはっきりわかるような席の配置が、どこかで問題になったのか、それとも問題になると思ったのか、担任は1週間ほどで新しい席替え法を改めてしまった。その結果、マドンナたちとは遠くから眺める距離まで離れることになった。話ができ過ぎだと最初から思っていたが、実際に壊れた夢を前にしたときの失望感は大きかった。しかし、たった1週間だったが竜宮城で授業を受けているような心持ちでいることができたことは、今でも幸せだったと思っている。

 さて、職場では4月の人事異動が近づいてきた。人事異動もこの席替えと似た心境で迎える者が多いはずだ。マドンナと同じ部署になりたいという願望もあるに違いない。行きたくない部署や行きたい部署もあるはずだ。幾人かにその辺の心境を聞いてみたら、期待より不安の方が大きいという者の方が多かった。この辺が人事異動と席替えの違いのようである。