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【街景寸考】歯の健康優良児
Date:2013年08月21日09時30分
Category:
エッセイ
SubCategory:
街景寸考
Area:
指定なし
Writer:
大昭寺いさじ
汚い話になって恐縮だが、30歳で結婚するまで殆ど歯を磨いたことがなかった。それでも虫歯は1本もなかった。結婚してからは生活がカミさんの管理下に入ったので、だいたい毎日磨くようになった。にもかかわらず36歳のときに虫歯ができた。初めての虫歯だった。カミさんは小さいころから歯を磨かなかったことが原因だといったが、私は歯を磨くようになったのが原因のような気がしていた。カミさんはこの原因の解析よりも、歯を磨いてこなかったこと自体に嫌悪していた。
歯のことで想い出すのは小6のときの「歯の健康優良児コンテスト」である。このコンテストで私は担任からその候補の一人として推薦されたことがあった。虫歯が1本もないというのが理由だった。ところがコンテスト当日、直ぐ優良児の資格から外されてしまった。審査した歯医者の見立ては、「虫歯が1本もない」という評価に加えて「歯並びも良い」というものだったが、最後がいけなかった。「歯が汚い。歯ぐらい磨きなさい」だった。
この歯医者の忠告があったにもかかわらず、その後も歯を磨こうとはしなかった。むしろ、歯の健康優良児に推薦されたことで自信を持った。人前でジュースやビールのビンの蓋をポンポン歯で開けて見せた。これには大人も感心していた。磨けば歯はきれいになるかも知れないが、そのことで歯が強くなるとは限らないというのが私の持論だった。実際、歯を磨いている子どもたちの多くが虫歯になっていたし、歯を磨かなかった私は1本の虫歯もなかったのだ。生まれつき強い歯と弱い歯があるのだと考えていた。
ところが36歳になってからは次々と虫歯ができた。治療中、医者から「痛かったら手を上げてください」と言われても、緊張のせいか足の方がひんぱんに上がっていた。
最近、入れ歯の方がいっそいいのではないかと思うことがある。歯を全部取り出してきめ細かく掃除ができる。片手で口に嵌め込むときの様子は、機械的で、ランボーが自動小銃の弾丸を装填する場面を思い出したりする。何よりも虫歯の痛みから永久に解放されることになる。
今朝も歯を磨いていたら歯茎から血が出た。憂鬱な気分である。そう言えば、ハミガキ剤のことを、粉でもないのになぜ「歯磨き粉」と言うのだろうか。