【街景寸考】試食コーナーでのこと

 Date:2013年11月27日09時38分 
 Category:エッセイ 
 SubCategory:街景寸考 
 Area:指定なし 
 Writer:大昭寺いさじ
 以前小欄で、カミさんの買物に付き合わされるときの辛さを書いたことがあった。辛いのは事実だが、楽しみが全くないわけではない。試食コーナーでの試食である。特にフライパンで炒められたウィンナーを食べるのを楽しみにしている。楽しみにしているが、これが見た目ほど簡単にはいかない。食い意地の張った卑しいおやじだとは思われたくないと思うからだ。

 販売するおばちゃんたちの人柄によっても、手が出せたり、出せなかったりする。そばを通る客に気前よく振る舞っているおばちゃんなら問題ないが、眉間に皺を寄せてフライパンを睨むように調理するおばちゃんの場合は、なかなか手を出すのは難しい。

 先日、若い母親と5,6歳くらいの子どもがウィンナーの試食コーナーで立ち止まったところを見た。私もそれに合わせるように立ち止まった。近くに販売のおばちゃんがいなかったので悪い予感がしたのだ。私はそのまま監視の態勢に入った。

 果たして、その予感は的中した。二人は最初の一コずつを食べたと思ったら、立て続けに2コ、3コとウィンナーを爪楊枝で突き刺し、頬張った。あっという間に合計6コ食ったことになる。試食の域をはるかに越えている。抗議をしたかったが、抗議をする立場にない。利害関係がないからだ。

 親子の悪行はそれだけでは収まらなかった。頬張ったウィンナーが喉元を通り過ぎたころ、販売のおばさんが戻ってきた。そして、それまでの親子の悪行を知らないおばちゃんは、優しい笑顔で「よかったら、ウィンナーをどうぞー」と言ったのである。

 そしたら何と、若い母親は「あーよかったねー、1コずつもらおうか」と、きた。いかにも最初の1コのような態度である。しかも、しおらしい態度をしながらもらっていた。今まで散々食ってたじゃねぇーかと声を上げたかったが、ここでも我慢しなければならない立場にあった。

 1コのウィンナーを試食するのに相当神経を使っている人間もいるというのに、あの悪行は何だという思いがあった。不公平という言葉と人間不信という言葉が頭の中で渦を巻いた。

 この怒り、正義感からきたものでないことは確かである。そう思いながらカミさんの背中を追いかけるしかなかった。いつもより辛い買物になった。