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【街景寸考】僧侶の読経
Date:2014年10月07日17時39分
Category:
エッセイ
SubCategory:
街景寸考
Area:
指定なし
Writer:
大昭寺いさじ
祖父や祖母が亡くなったときに世話になった寺が川崎町にある。7年前に亡くなった叔父の葬儀のときもこの寺で世話になった。住職はそのときで90近い歳だったと思われる。叔父の葬儀のときは、この住職だけでなく若い僧侶も一緒だった。初めて見る顔だったが、いかにも跡継ぎになる僧侶だという印象だった。
若い僧侶は30を少し過ぎたくらいの歳に見えた。今風の若者のように毛髪をベッカムのように尖がらせていた。住職の後ろに座り、色合いも控え目な法衣を着ていたが、読経の声はとてつもなく大きかった。高齢のせいで弱々しく唱える住職の読経を蹴散らすような勢いがあった。
つんざくという言葉がある。つんざくとは、強い力で引き裂くという意味だ。この若い僧侶の読経も、遺族や会葬者の鼓膜を引き裂かんばかりの暴力的な声だった。遺族の悲しみは苦痛に変わり、会葬者は耳の傷みに耐えなければならなかった。
叔父の3回忌のときには前の住職は亡くなられていたので、その若い僧侶が住職として読経をつとめた。住職になってもベッカム型は変わらなかった。法衣とその髪型が一体のものと受け止められず、仏教文化の退廃を思わせた。七回忌のときも同じ目に遭った。叔父が亡くなって7年経ったので、少しは住職らしく丸みを帯びた読経を期待したが、このときも遺族の鼓膜をつんざいた。
以前、何かの本で読んだことがあったが、今の仏教は葬式仏教と呼ばれ、仏教本来の在り方とは直接関係がないようなことが書いてあった。近年はその葬式仏教として行われてきた葬儀や法事も縮小、省略、廃止の傾向にあり、陰が薄くなっているようだ。
墓を放置する家も増えているという。墓地は地域や寺との関係で維持されるものだが、社会の構造変化でその関係が壊れ、墓地の崩壊が進んでいるという。今後は自分の墓さえこだわらない人が増えるという予測もある。
家族が亡くなれば、「静かに」その者を偲び、手を合わそうとする心は変わらなく続くはずである。この「静かに」というところをあの若い僧侶に分かってもらえればありがたい。死者だってあの読経では、うるさ過ぎて安眠できないのではないか。