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【街景寸考】天国に逝ったソフィ
Date:2016年08月03日08時01分
Category:
エッセイ
SubCategory:
街景寸考
Area:
指定なし
Writer:
大昭寺いさじ
先日、飼っていた猫が死んでしまった。人間の齢なら50歳くらいだったので早死にしたほうだ。生まれて間もない子猫を、娘が前触れもなく自宅に持ち帰ったのは9年前のことだ。ダンボールに入れて捨てられていたということだった。
娘が居間に放すと、子猫は「ミヤァー、ミヤァー」とせわしなく鳴き続けた。「飼ってもいい?」ある程度予期していた娘の言葉だった。後年、「あのとき飼ってもらえるとは思っていなかった」という娘の言葉を聞いたとき、当時の親バカ振りを少しだけ悔やんだ。
子猫に「ソフィ」という名前を付けた。あれこれと考えたわけではなく、直ぐにこの名前が浮かんできた。宮崎駿氏のジブリ作品に登場するヒロインの名前である。股間にタマらしきものがないように見えたので、てっきりメスだと思って付けた名前だった。ところが、後日動物病院に連れて行ったとき、獣医は直ぐにソフィがオスであることを見分けた。
「自分が面倒を看るから」と言っていた娘だったが、数日間続いただけだった。カミさんは、この事態をすでに予測していたかのように引き継いだ。娘はと言えば、ソフィと遊んだり、頭を撫でたりするときだけ関わっていたが、間もなく結婚したので他人のような関係になってしまった。
私は糞の始末をしていたが、餌を与えることはほとんどなかった。糞の始末をしてもらっているという認識がなかったソフィは、私に対して恩義のようなものを持つことはなかった。ソフィは私の顔を見るたびに、初めて遭遇した人間でも見るかのように身構えていた。
ソフィの病気は癌だった。カミさんは自分の子どものことのように心配し、面倒を看た。餌を食べなくなってからは、最期まで寄り添うのだという強い意志が伝わってきた。それから数カ月経ったある日、じっと横になっていたソフィが突然喉を真っ直ぐ伸ばし、何回か荒くて大きな呼吸をしたかと思ったら、突然クルクルと3回ほど続けて飛び跳ねた。苦し紛れの動きだった。
ソフィは再びじっと横になると、間もなく目を開けたまま動かなくなってしまった。カミさんはソフィを抱きかかえ、「ソフィ、ソフィ」と叫び、号泣した。その悲しみは明らかに私とはかなりの温度差があった。その温度差に居心地の悪さを感じたが、ただ傍観するほかなかった。自分が死んだときも、これほど泣いてくれたら立派なものだとも思った。
今、ソフィは家の庭の片隅で安らかに眠っている。