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【街景寸考】ゴキブリのこと
Date:2016年08月17日08時01分
Category:
エッセイ
SubCategory:
街景寸考
Area:
指定なし
Writer:
大昭寺いさじ
ここ数年、自宅であまりゴキブリを見なくなった。以前に比べれば大幅に減ってきたのは確かだ。カミさんが何かの駆除剤をリビングの隅々に配置しているらしく、それが効果を上げているようだ。
これに加えて、カミさんは「飼い猫の存在もゴキブリが減った原因」だと言っているが、あまり信じられる説ではないように思えた。ところが飼い猫が死んでから以降、ほんのわずかではあるが、出没頻度が増えてきたように思える。
小さい頃からゴキブリは大嫌いだった。今もその気持ちは少しも変わらない。ちょっと見た目はクワガタムシやカブトムシの仲間のように見えなくもないのに、ゴキブリだけは不気味な生き物としか見えないからだ。頭は小さいのに、鈍い光沢を放つ大きなハネが特に不気味である。
畳や天井、壁をスルスルと、自在に音を立てずに走り回る様子は、恐怖でさえある。逃げ足が速いのに、危険を察知すると物陰にじっと隠れたまま動かなくなるという習性も、頭脳的に思え、気色が悪い。
まだ息子たちが小さかった頃、天井近くの壁にいたゴキブリを蠅たたきで叩こうとしたら、ハネを広げて自分の方へ飛んできたことがあった。私は思わず両手で顔を覆い「ヒェー」と悲鳴を上げていた。息子たちが初めて見る弱い父親の姿だった。
子どもたちは、父親のゴキブリ嫌いの影響を受けながら育った。親父と同じようにゴキブリが現れると及び腰になったり、腰が引けたりした。今では一家の主人となった息子たちではあるが、いずれは自分と同じように嫁や娘たちの前でゴキブリに慄く、弱い父親の姿を見せることになるだろう。
ゴキブリは人に咬みついたり、刺したりする危険な生き物ではない。ゴキブリが触れた食べ物のせいで、何かの病気になったという話も聞いたことがない。ただ不気味な存在として嫌われる損な生き物だと言えなくもない。
人間の中にも、不気味な存在のように思われ、敬遠される者がたまにいる。身だしなみも清潔にしているのに不潔感が漂っているように思われたり、正体がはっきりしているのに、何か怪しいことを考えているように思われたりするタイプだ。
怪しく見えるのは、内向的な性格だったり謙虚な性格だったりするのが、そう見えてしまうのかもしれない。表現が不器用な人たちに多いタイプである。表現が不器用な人に怪しい人はまずいないと言っていい。「人は見た目ではない」ことを再認識したい。