【街景寸考】「冬の夜」

 Date:2017年01月04日08時01分 
 Category:エッセイ 
 SubCategory:街景寸考 
 Area:指定なし 
 Writer:大昭寺いさじ
 聞き覚えのある旋律がカーラジオから流れてきた。確か小学校の音楽の授業で歌ったことのある曲だった。旋律に乗って口ずさもうとしたが、まったく歌詞が出てこなかった。曲名も想い出せなかった。助手席のカミさんに聞いたら、「冬の夜」ということだった。

 耳を澄ませて聴いていると、段々懐かしさが込み上げてきた。音楽の授業で歌っていた当時の自分や級友たちの顔が次々と浮かび、一緒に楽しく遊んでいた光景にまで思いが及んでいた。

 聞き終えると、この作者が「冬の夜」を作ったときの心象に近づいてみたくなった。自宅に帰ってから早速「冬の夜」をネットで検索してみたら、次のような歌詞だった。

  燈火ちかく衣縫う母は        春の遊びの楽しさ語る
  居並ぶ子どもは指を折りつつ   日数かぞえて喜び勇む
  囲炉裏火はとろとろ          外は吹雪

  囲炉裏の端に縄なふ父は      過ぎし昔の思い出語る
  居並ぶ子どもは ねむさを忘れて 耳を傾け こぶしを握る
  囲炉裏火はとろとろ          外は吹雪

 1番の歌詞では、仄明るいランプのそばで縫物をする母親が、春になったら楽しい遊びができることを子どもたちに語りかけている光景だ。優しい笑顔で語る母親の表情と、それを夢心地で聴き入る子どもたちの様子が目に浮かんでくる。

 2番の歌詞は、父親が囲炉裏の端で縄を綯いながら、昔あった話を子どもたちに語っている光景だ。なぜ子どもたちが「こぶしを握る」のかが妙に思えたが、このこともネットで疑問が解けた。当初の歌詞は「いくさの手柄を語る」だったらしいが、これを改め「昔の思い出語る」に変えたようである。おそらく「居並ぶ」子どもたちは、真顔になって聴き入っていたに違いない。

 「冬の夜」を聴いたことで、童謡や文部省唱歌を見直してみたくなった。忘れていた大事な日本人の心がたくさん埋もれているように思えたからだ。文語表現の歌詞で解せなかった部分を、改めて知ることができる楽しさもある。