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【街景寸考】胴長短足のこと
Date:2018年10月17日08時01分
Category:
エッセイ
SubCategory:
街景寸考
Area:
指定なし
Writer:
大昭寺いさじ
色気づいた高校生の頃、わたしは銀幕スターだった石原裕次郎や小林旭のような、足が長く背丈の高い男性になりたかった。胴長短足だったわたしは、整形外科でせめて5cmくらい足をつぎたすことができないものかと、本気で考えたことがあった。足さえ長くなれば必ず女性にもてるんだという思いからだった。
足長の方がカッコイイと思われるようになったのは、そんなに古い時代からではなさそうだ。戦前、戦中は「短足は重心を低くしやすいので、良い兵隊になれる」と言われていたほどだからである。おそらく足長になりたいと思うようになったのは、映画館で洋画を頻繁に鑑賞するようになった戦後からではないかと推測する。
映画で足長の欧米人を頻繁に観るようになった頃から、日本人の足も段々長くなってきたということになる。特に、高度経済成長期以後に生まれてきた子どもたちから、足が長くなってきた。このことは統計上でも明らかだ。新体操を演じている今どきの女性選手を見ても、ロシアやブルガリアの選手と見間違えるほどに足が細くて長い。とてもわたしと同じ日本人だとは思えないほどの違いがある。
足長がヒトの進化を物語っているとしたら、いまだに胴長短足が多くいる日本人は、相当進化の遅れた人種だったのではないか。そんなことを考えていたら、「BОRN TО RUN」という本のことを知った。その中で著者の「200万年ほど続いた狩猟時代に、ヒトは獲物を捕まえるために走り続けてきた」という仮説に深い興味を覚えた。
人間は生きるために獲物を追い、追うためには長い距離を走らなければならず、効率よく走るには足を長くしなければならなかったという説だ。だとしたら、日本人も原始の時代は、黒人や白人と同じように足長だったのではないか。この辺はいい加減な想像でしかないが、いずれにしても何かの原因で日本人だけが再び、胴長短足になったということになる。
その原因というのは、弥生時代以降、日本人はいち早く狩猟生活を止めて、肉食から米や菜食に偏った食生活に変化したためだったという見方がある。そのため腸が長くなり、胴長になった。加えて畳と着物による正座の文化が、足の長さを抑制してきた。
それが高々この50年ほどで足が長くなってきたのは、肉や牛乳などを食べる食生活へと変化し、畳から椅子の生活様式へと変化してきたことが背景にあると言っていい。意外にも、足長は進化にかかる遠大な時間を必要としなくても可能だということか。
それだったら、わたしも早速あぐらをかくのを止め、肉を主に食って1cmでも高くなるよう、今後の人生をかけてみたい。