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あれこれオーストラリア探訪「法被姿のおばさん」
Date:2014年11月17日12時59分
Category:
地域(海外)
SubCategory:
あれこれオーストラリア探訪
Area:
指定なし
Writer:
三陽生人
先日、三ヶ月ぶりにケアンズを旅した。シドニーはまだまだ寒さを感じる時候だが、ケアンズはすでに真夏の太陽が照りつけていた。
いつものように友人宅にお邪魔し、約一週間を過ごしたが、今回、はじめて一人でバスに乗りダウンタウンへ遊びに行った。友人に勧められ一人路上でバス停を探したが、友人が住む町にはバス停はなかった。走ってくるバスに手を挙げ、止まったバスの運転手に行き先を告げて料金を支払う。慣れないとバスに乗るのさえ難しい。シドニー同様、バスの運転手が次の駅をアナウンスすることはない。もちろん、電光掲示のインフォメーションなんか存在しない。時折バス停らしきものはあるが、バス停名がないからもどこで降りていいのかさっぱりわからない。最終的に乗客は私を含め二人だけになった。ダウンタウンに入ったところで、その一人が降りようとしたので、慌てて自分も降りる事にした。小心者の私には、一人乗車の不安は耐えられそうになかったからだ。
ケアンズのダウンタウンは実に小さい。高いビルもなく、優に歩いて見回ることができる。
さて、そんなダウンタウンにあるひときわ大きな果物屋に入った時の事だ。見るからに日本人とわかる某宗教団体の法被を着た女性がひとり買い物しているのが目に入った。いかにも声をかけてくださいと言わんばかりの法被の威力に押され声をかけてしまった。
獲物が捕れたと言わんばかりのおばさんの笑顔に絡めとられ、いつしかおばさんの後をついてスピリチュアルな人が集うというお店に連れて行かれた。そこには、霊気ヒーリング、タロット占いなどをする人たちが集まって店を開いていた。おばさんは、ここはただでお茶が飲めるし、いくらでも話が出来るからいいよ、と常連風だった。
確かに、そこは気さくな人たちの集合場所で、居心地は悪くなかった。おばさんは自分の素性を一通り話し、ケアンズにたどり着くまでの苦難の半生と、それを乗り越えるために獲得した信仰の素晴らしさを話してくれた。意外にも出身地が同じで良く聞く地名に親近感を覚えた。そういうこともあってか、おばさんは夕食に私を招待してくれた。
その夜、私は友人とおばさんちにお邪魔した。こじんまりした家は値段の割に快適そうに見えた。おばさんは私と友人を彼女の信仰の世界に勧誘したいのか、話には熱がこもっていた。どんなに苦しい環境にあっても、それは前世からの自分の借りを返しているのだから、全てを感謝して受け入れる事が大事だという話には同調できた。
信仰の世界に生きる人の話に、自分の心の汚れも少しは落ちたかと思い、そろそろ帰り支度をと席を立ちかけたときの事だった。おばさんは最後の一押しのつもりだったのだろう。自分の体験談として困っている人に5万円をあげたら500万円もの大金を手にする事が出来た話、そして、彼女の信仰の友人が1000万円の宝くじに当たった事を得意げに話してくれた。崇高な信仰の世界が、現世の垢にまみれたお金の世界に引きずり込まれて行く様は、心の世界の入り口に立っていた二人を瞬時に俗世へと引き戻すに十分だった。
信仰の世界に生きながら、なお現世利益を求める信仰者の心とは如何なるものなのか、改めて考えさせられる出会いとなった。